SDG Impact Japan×AgFunder×CIC Tokyoがアグリ・フードテックイベント『Japan AgriFoodTech Exchange 2024 – Innovation beyond borders-』を開催
SDG Impact Japanは9月26日、AgFunderおよびCIC Tokyoと共同で、アグリ・フードテック(AgriFoodTech)のスタートアップや事業会社、投資家などが一堂に会するイベント「Japan AgriFoodTech Exchange 2024 – Innovation beyond borders-」を開催しました。本稿では、同イベント内の「VENTURE CAFÉ」で行われた2つのセッション『国内外のプレイヤーと語る日本のAgriFoodエコシステムの現在地とこれから』『海外で挑戦する日本のAgriFoodTechイノベーターから見た日本市場の未来』の一部をレポートします。
日本の AgriFood エコシステム、現状と未来への課題とは?
セッション1のテーマは、「国内外のプレイヤーと語る日本のAgriFoodエコシステムの現在地とこれから」でした。モデレーターは株式会社UnlocX取締役の住朋享氏が務め、Beyond Next Ventures Partnerの有馬暁澄氏、アサヒクオリティーアンドイノベーションズ株式会社社長付部長の前田匡毅氏、三菱UFJ銀行執行役員営業第五部長の小杉裕司氏の3名がパネリストとして登壇。日本のAgriFoodTechの可能性と、そのエコシステム構築の在り方について熱い議論が交わされました。
スペインに見る成功事例と日本の強み
注目すべきは、世界的なフードテックイベント「Food 4 Future」での日本の存在感です。食の都として知られるスペイン・バスク州のビルバオで開催されるこのイベントは、世界中から9,000人もの関係者が集まる一大イベント。2023年は日本がパートナーカントリーとして迎えられ、プログラム中の「Japan session」は大好評のうちに幕を閉じました。
美食の国スペインが、なぜ日本に注目するのでしょうか。イベントでの熱気を肌で感じた住氏は、「日本で脈々と引き継がれてきた食の伝統、食へのこだわり、そして技に対する憧れと期待がある」といいます。しかしながら、そんな世界からの期待に対して、日本はまだそのポテンシャルを発揮できていない現状があるそうです。
日本のAgriFoodエコシステムの現状と課題
では、日本のAgriFoodエコシステムは、世界と比較してどのようなフェーズにあるのでしょうか。パネリストからは、投資額やスタートアップ数の増加といった明るい兆しがある一方で、ユニコーン企業の少なさや、海外と比較した成長スピードの遅れといった課題も指摘されました。
AgriFood Techに特化した投資に注力するベンチャーキャピタリストの有馬氏は、「日本のAgriFood Techへの投資は、世界と比較して5~6年ほど遅れている」と指摘します。その一方で、「近年は大企業によるCVC設立や、政府によるスタートアップ支援プログラムなど、官民双方でエコシステム構築に向けた動きが加速しています。特に、官の取り組みは、海外と比較しても前向きであると感じています」と語り、明るい兆しもあることを示しました。
US型?EU型?日本のエコシステムの向かう先
議論は、日本のAgriFoodエコシステム構築のあり方へと展開していきました。
世界的に見ると、スタートアップが急成長してイグジットを目指す「US型」と、企業間や官民の連携によるクラスターを形成しながら共存を目指す「EU型」のエコシステムが存在します。
有馬氏は、「EU型からスタートすると、会社がゾンビ化してしまうでしょう。日本はまずUS型のエコシステムを構築し、世界で戦えるユニコーン企業を生み出すことが先決です」と主張します。そのうえで、「まずはスタートアップが自律的かつイノベーティブに成長できる環境を整備し、AgriFood領域のGAFAのような世界を目指すことが理想的です」と提言しました。
一方、小杉氏は、大企業とスタートアップの新たな連携モデルとして「ベンチャークライアントモデル」を提唱します。これは、大企業が単にCVCで投資を行うのではなく、スタートアップの製品・サービスを積極的に活用することでその成長を支援するという手法です。
小杉氏は、「大企業はスタートアップにとって、製品の技術的な要求を満たしたり市場に出ていくためのプロセスを磨いたりする機会を与えてくれる最高の顧客でもあるわけです。スタートアップにとって何よりのアワードであると同時に、おのずと大企業側の事業部も巻き込みながらシナジーを生める関係性になります」と、そのメリットを強調しました。
「日本人は普通のことを普通にちゃんとやってくれる」と語る前田氏は、日本独自のAgriFoodエコシステムの可能性に言及しました。
前田氏は、「日本のAgriFood Techは、世界で戦うことだけを目標にするのではなく、日本の食文化や農業の持続可能性にも貢献できる産業を目指すべき」と主張。「そのためには、日本の歴史や風土に根ざした独自のFoodTechを紐解き、光を当てていくことが重要ではないでしょうか」と提言しました。
未来のAgriFoodTechプレイヤーに向けて
議論の最後に、パネリストたちは日本のAgriFood Techの未来に向けて、それぞれの想いを語りました。
有馬氏は、「AgriFood Techに関心のある方々は、高い意識を持って話を聞いてくれているはずです。その方々が中心的な役割を担えるようになれば、世界は変わります。ですから皆さん、ぜひ偉くなって、5年後、10年後の世界を変えていきましょう」とエールを送りました。
前田氏は、「日本には、縄文時代からすでに、食糧となる植物の品種改良の形跡や植林の形跡など、持続可能性や未来世代を見据えたAgriFood Techがありました」と、三内丸山遺跡(青森県)を訪れた際の驚きを共有。そして、「未来を考えることもさることながら、自分たちの系譜をたどることで、世界から尊敬されるAgriFood Techを生むヒントが見出せるのではないでしょうか」と結びました。
金融機関として富裕層取引の経験も豊富な小杉氏は、「日本の富裕層には、社会貢献や寄付を通して未来世代に投資したい方々が驚くほど多い」と前置きしたうえで、「真に金融機関がなすべきことは、そういった方々からスタートアップに資金を融通すること」と強調しました。そして、「起業家たちがフルスイングできるようなインフラと環境を、ここにいる皆さんと共に作っていきたい」と、決意を表明しました。
海外から見た日本のAgriFoodTechの可能性
セッション2では、株式会社Neural 代表取締役CEOの夫馬賢治氏をモデレーターに迎え、「海外で挑戦する日本のAgriFood Techイノベーターから見た日本市場の未来」をテーマにディスカッションが交わされました。登壇者は、IoTを用いた次世代尿検査サービスを開発・提供する株式会社Bisuの共同創始者兼元CEOであるDaniel Maggs(ダニエル・マグス)氏、シンガポール発のフードテックスタートアップ・ImpacFat(インパクファット)の創業者である杉井重紀氏、そして、東洋製罐グループホールディングス株式会社(以下、東洋製罐)シンガポール支店で新領域での事業開発に携わる遠山梢氏の3名。それぞれの経験を踏まえて、日本市場の課題や可能性、海外展開の秘訣などを語り合いました。
AgriFood Techが盛況なシンガポールの現在
パネルディスカッションでは、海外展開の拠点としてスタートアップ企業が集まるシンガポールに話題が及びました。東洋製罐グループでオープンイノベーションプロジェクトを推進する遠山氏は、シンガポールに拠点を持つ理由として、政府主導で構築されたスタートアップを支援するエコシステムを挙げます。
「シンガポールは、政府機関を中心としたエコシステムが非常に分かりやすく、シンプルに作られている点が魅力です。2019年に設立されたシンガポール食品庁(SFA)が、食料自給率向上という国家目標の達成に向けて、あらゆる政府組織や大学、企業をつなぐハブ機能を担っています。スタートアップにとっては、資金調達、研究開発、規制対応など、事業をスケールさせるために必要なあらゆるサポートが受けられる環境です」
シンガポールで培養魚脂肪スタートアップImpacFatを起業した杉井氏も、政府の積極的な投資による研究開発環境の充実を強調します。
「シンガポールは、政府主導でバイオテクノロジー分野に多額の投資を行っており、世界トップレベルの研究施設や人材が集まっています。私自身も、シンガポール政府の研究開発プログラムの支援を受けて、培養魚脂肪の研究開発を進めることができました。シンガポールは、新しい技術やアイデアを試すには最適なテストベッドと言えるでしょう」
シンガポールは人口わずか500万人強の都市国家。民族・宗教・文化的背景の異なる人々が共存する多様な国家であり、中華系住民が約7割を占めることから、とりわけアジアを中心に海外展開したいスタートアップにとって、魅力的なテストマーケットといえそうです。
急速にスタートアップやベンチャーキャピタルのエコシステムが発展してきたシンガポールには、「米国ないし欧州発の多国籍企業が多い」と、杉井氏。
遠山氏も、「投資家のネットワークの多様性も高く、場合によっては投資家のオンライン株主会議に10カ国を超える国から入ってくるほど。グローバルな投資家ネットワークを通じて、さまざまなマーケット情報を交換したり、スタートアップが進出すべき次なる市場へのつながりを得たりすることもあります」と、メリットを強調しました。
海外と日本のエコシステムの違い-拠点戦略と資金調達-
海外と日本のエコシステムの違いについて、ダニエル氏は、「それぞれ長所短所があります」と話します。
「日本には、製造業やものづくりの強みがある一方で、ソフトウェア開発や市場の拡大には海外の環境が適しています。したがって、Bisuでは、ハードの設計や製造を日本で行い、ソフトウェア開発は海外で行うという複合的なアプローチをとっています。日本のカスタマーサービスや製造業の強みを最大限活かしつつ、海外の技術や市場も取り入れることが重要です」
また、Bisuでは、「法人登記は会社法上のメリットの大きい米国・デラウェア州に置き、実際の事業拠点は東京に置くという、拠点戦略をとっています」とのことです。
「日本のVCには奇異に映るかもしれませんが、グローバルな投資家にとっては常識的な選択だと思います」
多国籍で事業を展開すべきタイミングに関してダニエル氏は、「資金調達のキャパシティと文化作りが大きく影響します」と指摘し、企業が資金調達の可能性を最大化するために早い段階で多国籍展開を視野に入れるべきだとしながらも、「それ以上に重要なのは文化作り」と強調します。
海外のチームメンバーとビジョンや目的を共有し、本気度とスキル見極めなくてはなりません。また、「どの市場で資金調達し、どの市場で製品展開するのか、国ごとの需要や規制を踏まえたうえで明確にテストすべき」と加えました。
コラボレーション成功のカギは目的の明確化
グローバルなスタートアップエコシステムにおいて、企業や研究機関との連携は大きな推進力となります。
自身も研究者である杉井氏は、「さまざまな国のパートナー企業と組んで研究開発を進めています」といいます。日本企業とコラボレーションについては、「大企業が中心なので、意思決定に時間を要するという特徴があるものの、丁寧なやりとりでコミュニケーションしやすい」と実感を述べます。
一方、海外企業とのコラボレーションを成功させるためには、「仮でも良いので、コラボレーションの明確な目的を定めておくことが重要です」と、遠山氏。
「日本の企業は、スタートアップ側も事業会社側も、何を目的とするかを明らかにしないままに「海外展開したい」という漠然とした目的で共同することも珍しくありません。しかしながら、シンガポールでもそれ以外の海外でも、企業同士が組む際には『共同研究がしたい』『資金調達したい』『事業創造まで共に目指したい』など、明確な目的のもと共同します。そうすることで、紹介する側も適切なパートナーを紹介しやすくなります」
日本のAgriFoodTechは「自信を持って」グローバルへ
パネリストたちは、参加者・視聴者に向けて、次のように語りました。
ダニエル氏は、「日本には多くの強みがあります。日本の強みと海外の良さを活かしながら、自信を持ってグローバルで活躍していただきたい」と激励しました。
そのうえで、「海外の投資家から資金調達する際には、製品・サービスの機能性を説明する前にまず、自信に満ちたトーンで投資家の感情を動かすことが重要です。『この会社は成功する』と感じさせなければ、投資家は投資しません。感情を動かして、次にロジックを説明するという順序が大事です」と、貴重な助言を与えてくれました。
遠山氏は、「自社の事業と実現したいことに適した事業環境を選びましょう。それが日本でなくて海外であるならば、海外を選んでいただければと思います」と、背中を押すメッセージを届けました。
そして、「逆に、日本の事業会社が『こういう事業環境があるので、こういうスタートアップに来てほしい』と明確に打ち出すことで、海外の優秀なスタートアップを引き込むこともできます」と、明確化の重要性を再度強調しました。
杉井氏は、「日本の食品に関する伝統や蓄積は素晴らしく、当社のメンバーであるシンガポール人やマレーシア人も日本の技術や食品に注目しています。研究開発も、日本人の性質に向いていると思います」と、海外視点からの日本の食と技術を評価しました。
そのうえで、「早い段階で日本に拠点を持ちたい」として、日本の研究者や事業会社との協業に意欲を示しました。
最後に、モデレーターの夫馬氏は、「食品は、文化によって受け入れられるか否かが大きく左右されるものです。自社の製品や技術がどの国の市場や規制にフィットするかは分かりませんから、日本の中だけ見ていてはもったいない」と述べ、「ぜひ、日本の外にも視野を広げてみてください」と締めくくりました。
日本のAgriFoodエコシステムは、今まさに大きな転換期を迎えています。日本ならではの価値を発掘しながら、世界に誇る「農」と「食」の未来を創造すべく、スタートアップ、大企業、投資家、そして金融機関が一体となって、世界を舞台に新たな挑戦を続けていくことが期待されます。
▼イベント・セミナーのお知らせ
ウェビナー:
「Reforesting the World:世界の森の回復に向けたお金の流れとファイナンス」
森林再生(ARR)に特化したクライメートテック・スタートアップのTerraformationと共同で、自然資本とファイナンスに関わるウェビナーを開催いたします。
本セミナーでは、Terraformationが手掛ける海外の森林再生プロジェクトの現状や、主要な投資家を含めた資金流入の現状、海外のカーボンクレジットのオフテイカーの関心などについて紹介します。
<Terraformationについて>
Terraformationは2020年に米国で設立された森林再生スタートアップです。米ソーシャルニュースサイトのReddit(2024年NASDAQ上場)元CEOのYisang Wong氏によって設立され、OpenAIの創立者であるSam Altmanなどが出資。森林プロジェクト・デベロッパー向けに、生物多様性に焦点を当てた森林アクセラレータープログラム「Seed to Carbon Forest Accelerator」を運営や、森林再生プロジェクト管理むけのソフトウェアプラットフォームの提供、アーリーファイナンスやカーボンクレジットの組成支援などを提供している。
日時:2024年11月20日(水) 10:00-10:45
主催:Terraformation
共催:株式会社SDGインパクトジャパン
費用:無料
場所:オンライン
<以下からお申し込みください>
https://terrraformation.peatix.com/view
▼SIJの活動状況・ニュース
RIMMプロダクト 明治安田生命へ提供開始
当社グループ会社の株式会社RIMM Japanは、明治安田生命保険相互会社(以下、明治安田生命)の地方創生プロジェクト「地元の元気プロジェクト」の一環として提供する「ESG評価サービス」へ、日本企業向けにカスタマイズした当社プロダクト「RIMM」の提供を開始いたしました。
🌐 明治安田生命のリリースはこちら(PDF)
🌐 RIMM Japanのお知らせはこちら
弊社ファンドを通じた投資先NILOが「注目すべき世界のクリーンテック企業50選」に選定
当社が取り扱うサステナブルテックVC戦略のポートフォリオ企業であるニュージーランドのスタートアップのNILO社が2024年の「注目すべき世界のクリーンテック企業50選(CLEANTECH 50 TO WATCH 2024:CleanTech Group発行)に選出されました。NILO社は廃プラスチックから工業用接着剤を製造する技術を開発する化学系スタートアップです。2023年にはスウェーデン家具大手のIKEAが同社の株式の12.5%を取得しており、サーキュラーエコノミーや脱炭素に貢献するスタートアップとして注目されています。
🌐 CLEANTECH 50 TO WATCH特設サイト
🌐 (参考)廃プラスチックから工業用接着剤を製造するNILO
10/8 国際金融フロンティアにパネリストとしてCEO小木曽が登壇いたしました
日経主催の国際金融フロンティアのパネルセッション2「日本の金融戦略におけるESG/サステナビリティーのあり方」に、当社CEO小木曽が登壇いたしました。世界/日本のインパクト投資について講演しています。
イベントサイト(イベントは終了しています)
※アーカイブ動画を視聴いただけます
https://www.global-nikkei.com/nvgfif/24/
10/30 Bio Engineering Capital島原氏のインタビューがcokiに掲載されました
今年の8月に当社と資本業務提携を結んだBio Engineering Capital株式会社の代表取締役 島原氏のインタビューが、サステナビリティ情報メディアcokiに掲載されました。
医療AI/DXのエコシステム創出の重要性、戦略、展望について説明しています。
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https://sdgimpactjapan.com/jp/news/