COP29 レポート

2024年11月30日

COP29 レポート

今回11月11日からアゼルバイジャンのバクーで開催されたCOP29は、予定の会期を2日延長し24日に閉幕した。今回会議初日の首脳級会合に欧米、先進国の首脳が参加を見送ったことにより、COP29に関する報道はCOP28と比較しても少なく、話題性についても昨年より低調な印象があったが、参加者は登録ベースで6万8千人となり、COP28の10万人に次ぐ2番目の参加人数であった。会場に居る限り関心や熱気はむしろ高まっている印象があったが、ファイナンスCOPと言われた今回の会議の焦点でもある気候変動対策資金の議論に対して、先進国は及び腰であったのと対照的に途上国の真剣度がより高まっていたのかもしれない。

COP29の開催地となったアゼルバイジャン共和国は、北はロシアのダゲスタン共和国、西はアルメニア、南はイランと政治的に不安定な国々と国境を接しており、特にアルメニアとは係争地をめぐり2023年に紛争が起きたばかり。一方豊富な化石燃料資源や石油製品の輸出により、経済は2000年以降成長を続けており、安定的な政権基盤の礎となっている。バクーの街並みをみていると建物や通りは非常に美しく、この政治的安定、経済的繁栄は石油、ガスの輸出によってもたらされていることが想像できる。地政学的に不安定な地域でもバランスを取りながら安定的に統治されている同国を見ると、経済移行国や発展途上国が、まず経済の安定性や発展を重視しなくてはならない状況が良く理解できるし、多くの発展途上国にとっては、先進国が唱えるように一足飛びに再生可能エネルギーへシフトすることは経済的にも現実的な選択ではないのではないかと改めて考えた。

会期が延長された主な理由は、気候変動対策に関わる資金拠出に関わる問題であった。気候変動対策に関しては、先進国、途上国間での責任分担や資金の種類(長期資金、緩和資金、適応資金、損失と損害資金等)によっても、どの範囲までを先進国が負担すべきか等の意見の対立が目立つ。ロシアのウクライナ侵攻による欧州経済へのダメージ、来年アメリカの政権交代による気候変動政策の転換によって先進国の資金拠出の拡大は期待できない。今後は島しょ国、アフリカなど最も温暖化の影響を受けている気候変動への対応に脆弱な地域への適応対策に重点を置くなど限られた資金に優先順位を付けることが重要ではないか。

会議序盤は実現不可能とも思われる途上国からの資金支援の要求が出されていたが、COP29では2035年まで最低でも毎年3000億ドルの資金を先国が主導して確保することが最終合意された。この結論に関して途上国側の一部からは既に不満が示されているが、今までの目標値1000億ドルと比較すれば3倍の資金規模であり、このあたりが現実的な落としどころであったのではないかと思う。一方で資金拠出が充分ではない中でも気候変動対策を進めるために、今後は民間資金を如何に気候変動対策に引き込むかが重要な課題であり、そのような認識を前提とすればパリ協定6条の運用規則やガイドラインが合意された意味は大きく、カーボンクレジットを活用した民間資金の活用が途上国の気候変動対策の一助となり、地球全体としての温室効果ガスの削減に寄与することも充分に期待できる。日本でも政府案として2026年から国内企業間の排出権取引が開始されることが示され、今後カーボンクレジットとグローバルな気候変動対策が本格的に連動することになる。この制度は日本の温暖化対策にとっても世界にとっても重要な一歩になることを期待したい。
(SDGインパクトジャパン 栗田)

▼イベント・セミナーのお知らせ

Grow Impact Accelerator Demo Day

11月21日に第5回目のGROW Impact Accelerator Demo Dayがシンガポールにて開催されました。当アクセラレータープログラムはAgFunderとGROWのチームと一緒に推進しているもので、フードセキュリティ、持続可能なフードシステム、気候変動における重要な課題に取り組むアグリフードテックのスタートアップを育成するためのプログラムです。今回で最後のプログラムになりましたが、今まで39社のスタートアップを支援してきました。

詳細につきましては、こちらをご覧ください

https://gogrow.co/the-grow-accelerator/

Asia-Pacific AgriFoodTech Investment Report 2024

戦略パートナーであるAgFunderが「Asia-Pacific AgriFoodTech Investment Report 2024」を発行しました。
アジア太平洋地域(APAC)におけるアグリフード・テックの資金調達は、過去数年は2021年に資金調達金額が急上昇した反動もあり低水準で推移していましたが、2024年には目覚ましい回復を見せました。2024年10月末現在、APACのアグリフードテックのスタートアップは約42億ドルの資金を調達しており、2023年の同時期に調達した31億ドルから38%増加しています。
詳細につきましてはこちらのリンクよりフルレポートをご覧いただけます。

https://agfunder.com/research/asia-pacific-agrifoodtech-investment-report-2024/

▼SIJの活動状況・ニュース

インドネシア水力発電への投資とJCMクレジットの推進へJパワーと共同出資会社を設立

インドネシア国の水力発電事業会社であるPT Mulya Energi Lestari社への出資と、同社が運営する発電事業から創出される二国間(JCM)クレジットの取扱いに向けて、電源開発株式会社(Jパワー)と共同で株式会社アイル・インドネシアを設立しました。

リリースはこちらから 2023/11/13 リリース

製造業脱炭素化支援ベンチャーのムダレスと資本業務提携

当社は、製造業への脱炭素化・省エネサービスを提供する株式会社ムダレス(本社:東京都目黒区、代表取締役:廣松茂、以下「ムダレス」)へ出資するとともに、事業連携に向けた資本業務提携を締結しました。
当社はムダレスとの協業を通じて、脱炭素社会の構築に貢献して参ります。

リリースはこちらから 2023/11/22 リリース

▼そのほかのニュースはこちら

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馬場 渉

パナソニックホールディングス株式会社サステナビリティ担当。 コーポレートイノベーション、グリーントランスフォーメーションを担当した。 その後パナソニックグループの環境・エネルギー事業を担当し、 グループ経営戦略と一体化したPanasonic GREEN IMPACTの策定、サステナビリティ委員会、 環境エネルギー技術戦略会議などの設置に携わる。 それ以前は、SAPジャパン株式会社、SAP America Inc、SAP Labs LLCなどでビジネス、 研究開発、デザイン部門の経営を歴任。20年以上に渡り様々なセクターにおける イノベーションとサステナビリティを専門とし、 公益社団法人日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)、株式会社フィナンシェ、 Code for Japan、英Peace One Dayなどの取締役や理事、アドバイザーを務める。