グローバルにおけるアグリフード・テック投資のトレンド

2024年03月29日

先日(3月19日)、芙蓉総合リース株式会社からの、農業や食料分野のスタートアップに特化した「AgFunder SIJ Impactファンド」への500万ドル(約7億4000万円)の出資受け入れに関してリリースを配信しました。

当ファンドは、シンガポールのベンチャーキャピタルAgFunder Asia Pte. Ltd.と株式会社SDG Impact Japanが共同運営しており、アサヒグループホールディングス株式会社、明治ホールディングス株式会社、キユーピー株式会社、株式会社中島薫商店などの日本の大手食品会社からの出資を受けています。今回は金融・サービスの企業が参加したことで、社会課題の解決と経済価値の両立を目指すアグリフード・テックへの投資の重要性に注目が集まっています。

アグリフード分野では、フードロス、農業活動によるCO2排出、将来の食糧危機など、さまざまな社会課題があります。海外ではこれらの問題解決のためにフードテック分野への投資が活発化しており、日本政府もこの分野への支援を行っています。

今月のコラムでは、AgFunderが発表した最新報告に基づき、グローバル市場におけるアグリフード・テックへの投資に関する情報をお知らせします。

*内容はAgFunder社がまとめた“Global Agrifood Teck: Investment Report 2024”から抜粋
https://agfunder.com/research/agfunder-global-agrifoodtech-investment-report-2024/

2023年は投資が大幅に減少し、2024年もアグリフード・テックにとって厳しい一方で、新たな投資機会が提供される見通しです。

2023年はVC業界全体にとって厳しい1年ではありましたが、アグリフードの分野でも同様に2023年は前年比49.2%減少しています。取引件数は前年比26%減、取引金額の規模は前年比で約30%減少しました。

成熟したアグリフード・テック企業にとって、2024年は厳しい一年になる見込みですが、一方で、ビジネスモデルの見直しやスリム化により、企業評価を高め、新しい投資を得る機会が増えると予測されています。

アグリフード・テックがグローバルベンチャーキャピタル投資のわずか5.5%にとどまる事実は驚きです。食品と農業は世界経済や雇用に大きな貢献をしており、世界GDPの15%を占め、労働力の半数以上を雇用しています。それなのに、この分野への投資が少ないのはなぜでしょうか?社会課題解決に向けて、より多くの投資家がこの分野に参入する必要があると考えられます。

2023年のアグリフード・テック投資を振り返りましょう。

アグリフード・テックのスタートアップは、世界中で総額156億ドルを調達しました。この数字は昨年比で49.2%減少しましたが、一部の分野ではポジティブなトレンドが見られました。

2023年には、2つのカテゴリーが前年比で成長しました。バイオエネルギー&バイオマテリアルの資金調達金額は30億ドルで20%増加(リサイクル可能なプラスチックの代替となる繊維成型品を製造するFootprint社が830百万ドル資金調達したことがけん引)しました。またファームロボティクス、機械化、および設備も過去5年間の着実な上昇トレンドを継続し、前年比9%増の7.6億ドルとなりました。農場や食品生産のアップストリームスタートアップへの投資は、2023年に全体の資金調達の62%を占め、そのシェアを伸ばしました(2022年は51%、2021年は30%でした)。

一方で大きな比率を占めていたeグロサリーは60%減、クラウドリテールは79%減など川下を中心に厳しい状況でした。

次に地域別で見てみましょう。

アグリフード・テック分野をけん引していた米国が前年比58%減と大きく冷え込みました。過去において米国は当分野の投資金額全体の40%を占めているのですが、30%までに低下しました。また、昨年2番目に投資金額が大きかったインドも76%減と大幅に縮小したこともあり、アジア全体でコロナ前までの水準までに下落しましたが、アジアは今後も人口が増えることで供給と需要の両方で重要な地域となり、持続可能な食農が必須となると考えています

なお、欧州の下落幅は小さく、前年比14%減少にとどまり、米国との差がだいぶ縮まりました。

以下では、フードテックとアグリテックに焦点を当てて、ベンチャーキャピタル投資家に聞いた2024年の投資市場に対する予測をご紹介します。

2024年に最も多くの資金を集めるカテゴリーは何ですか?

代替タンパク質のカテゴーで、特に培養肉や精密発酵がそのトップとなっています。フードデリバリーやバイオテクノロジー、健康と栄養関連のスタートアップも支持を受け、それぞれ12%から15%の支持を得ています。Seana Day – Culterra Capital

2024年のトレンドは?

VCの回答では、AIと自動化、健康と栄養、そして炭素が注目されています。過去5年間、食品業界は革新的なイノベーションを続けてきましたが、成功例は限られており、真の革新は時間を要するものです。そのため、ディスラプションよりも持続可能な革新を重視するべきです。Matilda Ho – Bits x Bites

2024年のアグリフード・テック投資に関する予測は?

投資家の多くが、投資家や創業者に対して計画的で責任ある行動が求められていると言っています。ほかにも出口戦略や投資リターンに関する興味深い予測が語られています。

VCが資金調達に苦戦しているため、より多くの企業が投資活動を活発化させるでしょう。Erin VanLanduit – Cargill

一握りの企業が、市場をリードする製品を持って明確なカテゴリーのリーダーとして浮上するでしょうKatrin Burt – Grosvenor Food & AgTech

2024年は新しい世代による農業の幕開けとなるでしょう。農地の受け継ぎが進み、西洋諸国では「土地に戻る」動きが見られ、新たな世代の農家が台頭しています。これは、ライフスタイルの選択肢や持続可能な実践、そして生物多様性への情熱によって推進されています。Mark Durno – Rockstart

アーリーステージの参入が増え、レーターステージは金利が低下するまでは低調だと予想しています。。Carter Williams – iSelect Fund

投資の原点に戻る動きが増え、健全な投資環境になると認識しています。投資家は収益の成長とエグジットの方法を重視するでしょう。その中で、農業や食品分野にはクライメートテックへの資金提供が増えることが期待されています。Daniel Skaven Ruben – FoodTech Weekly/Solvable Syndicate

2024年の投資は、ビジネスの質が高まり、評価額が修正されるため、堅実な収益が見込まれます。Costa Yiannoulis – Synthesis Capital

どのような世界の出来事が投資に対する懸念となっていますか?

去年と同様、ロシアとウクライナの戦争への懸念が残っています。加えて新たに、イスラエルとハマスの戦争や中国と台湾の緊張が加わりました。これらの紛争が世界の安定に与える影響について広く懸念されています。また、気候変動や経済問題も依然として心配されています。人民主義や社会主義、言論の自由への攻撃、政治的な方向性、社会の統治に関する懸念も示しており、政治的な議論や社会の統治の方向に対する不安が反映されています。Jaap Strengers – Future Food Fund

世界的な懸念の一つが、食料の安全保障です。気候変動や地政学的な変化、紛争など、さまざまな要因がこの問題の重要性を強調し、これからもその重要性が続くことを示しています。地産地消の推進が問題の解決に不可欠です。Nadav Berger – Peakbridg

数字としてみたアグリフード・テックへの投資は厳しい側面を見せていますが、その中でも伸びを見せている堅調な分野があることや、投資家たちの評価でもアグリフード・テック分野の重要性は世界レベルでの課題を解決するために不可欠であることは明らかです。今後もその動きに注目し、有益な投資を行っていくことが社会からも望まれるものになることは間違いありません。

AgFunder Asia Pte.Ltd.

AgFunderは、イノベーションとターゲットを絞った投資こそが、世界の食と農のシステムに迅速かつポジティブな変化をもたらす最も強力なツールであるという信念のもと、2013年に設立されました。そのメディアプラットフォームであるAgFunderニュースは、年間200万人以上の訪問者と約10万人の購読者を抱え、業界の記録的なサイトとして、また知識源としての地位を確立しています。現在、AgFunderは、70社以上の投資実績を有する最も活発な農業食品テクノロジーのアーリーステージ投資家の一つであり、シリコンバレーとシンガポールにオフィスを構えています。

▼SIJの活動状況・ニュース

2/26 CEO小木曽が日本掲載新聞朝刊・健康経営研究会の広告に起用されました

CEO小木曽が、2月26日付けの日本経済新聞朝刊に掲載された健康経営研究会の広告に起用されました。 企業は女性の健康問題にどう向き合うべきか、課題と展望についてコメントしています。

https://kenko-keiei.jp/3178/

3/5 CEO小木曽がSusHi Tec Tokyo 2024のアンバサダーに就任いたしました

「SusHi Tech Tokyo 2024 Global Startup Program」は、世界共通の都市課題解決に向けた国内外スタートアップエコシステムとの”まだ見ぬ出会い”を創出するアジア最大規模・日本で唯一のグローバルイノベーションカンファレンスです。

開催日:2024年5月15日(水)-16日(木)の2日間
開催場所:東京ビッグサイト 西展示棟1・2ホール
※会場とオンラインのハイブリッド開催(ブース出展は会場のみ)
主催者:SusHi Tech Tokyo 2024グローバルスタートアッププログラム実行委員会

https://sushitech-startup.metro.tokyo.lg.jp/

3/14 ドルビックスコンサルティングxRIMM Japan共催のウェビナーを開催しました

RIMM Japanは3月14日、「サステナビリティ情報開示とGX推進アプローチ」をテーマに、ドルビックスコンサルティング株式会社と共同でウェビナーを開催しました。約30社の参加をいただき、ソリューションとしての商品紹介を行いました。

RIMM Japanへのお問い合わせはウェブサイトより受け付けております
https://www.rimm-japan.com/

3/19 Agfunder SIJ Impact Fundへの芙蓉総合リース株式会社からの出資受入

当社とシンガポールのベンチャーキャピタルAgFunder Asia Pte. が共同で運営するアグリテック及びフードテックに投資するインパクトファンド「AgFunder SIJ Impact Fund」に芙蓉総合リース株式会社からの出資を受け入れることとなりました。

詳しくはリリースを御覧ください
https://sdgimpactjapan.com/jp/

▼そのほかのニュースはこちら

https://sdgimpactjapan.com/jp/news/

▼Link

馬場 渉

パナソニックホールディングス株式会社サステナビリティ担当。 コーポレートイノベーション、グリーントランスフォーメーションを担当した。 その後パナソニックグループの環境・エネルギー事業を担当し、 グループ経営戦略と一体化したPanasonic GREEN IMPACTの策定、サステナビリティ委員会、 環境エネルギー技術戦略会議などの設置に携わる。 それ以前は、SAPジャパン株式会社、SAP America Inc、SAP Labs LLCなどでビジネス、 研究開発、デザイン部門の経営を歴任。20年以上に渡り様々なセクターにおける イノベーションとサステナビリティを専門とし、 公益社団法人日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)、株式会社フィナンシェ、 Code for Japan、英Peace One Dayなどの取締役や理事、アドバイザーを務める。